AWSは毎年、多くの新サービスや新機能をリリースする一方で、必要性が低くなったサービスを整理し、EOL(サービス終了)とすることもあります。
新サービスは各種イベントで積極的に宣伝されますが、終了するサービスについてはあまり周知されません。もちろん、利用中のユーザーには適切に通知されますが、システム設計を担うアーキテクトやコンサルタントにとっても、これらの情報を把握することは重要です。
そこで、本記事では2024年に終了した(もしくは終了とアナウンスされた)主なAWSサービスとその代替策をまとめました。ただし、これは著者の個人的な観点で選定した「重要なAWSサービス」のみを取り上げているため、あらかじめご了承ください。
AWS OpsWorks
- 終了日:2024年5月5日
- 代替製品:AWS Systems Manager、自前でChef/PuppetをEC2インスタンス上にデプロイ、ChefのSaaS版など
AWS OpsWorksは、2013年にローンチされたChefやPuppetのマネージドサービスです。OpsWorksはAWSの試験によく登場していましたが、私がAWS社員だったころには実際に使っているお客様を一度も見たことはありません。
ChefやPuppetの守備範囲は、AWSネイティブサービスでいうAWS Systems ManagerやCloudFormation、サードパーティーツールでいうAnsibleやTerraformと重なります。そのため、AWS OpsWorksを利用していたユーザーは、おそらくオンプレミスからクラウドに移行してきて、ChefやPuppetの運用資産を多く蓄積したユーザーだと推測できます。しかし、これらのユーザーも徐々にクラウドの運用に合わせてAnsibleやTerraformなどの新しいツールに移行してきたため、AWS OpsWorksがサービス終了になったのではないかと推測しています。
AWS App Mesh
- 終了日:2026年9月30日(2024年9月24日から新規利用不可)
- 代替製品:Amazon ECS Service Connect、Amazon VPC Lattice、Kubenetesのネイティブソリューション(Istioなど)
App MeshはIstioなどと同様にEnvoyプロキシを利用したサービスメッシュで、一定数のユーザーがいると思われます。しかし、Envoyプロキシのサイドカー構成を、ECS/EKS両方に向けて最適化するのが難しかったと思います。推測ですが、それがApp Meshがサービス終了の一因ではないかと思います。
代替製品は、ECSの場合はECS Service Connectになります。ECS Service Connectはシンプルでサイドカー構成を不要としています。
EKSの場合は、IstioなどのOSSソリューションを使用したほうがいいかもしれません。公式的には、VPC Latticeを後継製品としていますが、VPC Latticeはサービスメッシュではありません。「アプリケーションレイヤーの通信を管理するL4/L7のアプリケーションネットワーキングサービス」です。
なぜかというと、VPC LatticeはIstioなどが持っているリトライ機能やタイムアウト制御機能など、典型的なサービスメッシュの機能を持っていないからです。VPC Latticeは、イメージ的には無数のALBから構成された「メッシュ」になります。
Amazon QLDB (Amazon Quantum Ledger Database)
- 終了日:2025年7月31日(2024年7月より新規利用不可)
- 代替製品:Aurora PostgreSQLなど
いわゆる台帳型データベースで、一度記録されたデータは改ざんできず、過去のデータ変更履歴が保証される特性を持つデータベースです。監査記録管理や法的文書の管理などで使われるそうです。
おそらくなかなか普及率が上がらないのでサービス終了に至ったのではないかと思います。機能的にはAurora PostgreSQLでもほとんど代用は可能です。
AWS CodeCommit
- 終了日:2024年7月25日より新規利用不可
- 代替製品:サードパーティー製品(GitHub、GitLabなど)
CodeCommitのサービス終了は、多くの人を驚かせたのではないでしょうか。私がAWSに在籍していた際に、AWS社内でもGitリポジトリは原則CodeCommitを使用していました。
ただし、GitHubのような強力なコードレビュー機能がなく、これといった強みもあまりないと思います。ソースコードが100% AWS上で動作するユーザーならまだいいのですが、そうでなければ逆にCodeCommitが使いにくいかもしれません。冷静に考えてみるとサービス終了はユーザーにとってもAWSにとっても決断でしょう。
AWS Cloud9
- 終了日:2024年7月25日より新規利用不可
- 代替製品:なし
Cloud9のサービス終了もショックでした。確かにVS Codeなどに比べてやや使いにくいかもしれませんが、貴重なWebベースのIDEでした。もちろんGitHub Codespacesなど、WebベースのIDEはたくさん存在しますが、デフォルトでAWS CLIがインストールされているなど、AWSと密に連携しているWebベースIDEはCloud9しかないと思います。
まったく同じ機能の代替製品はありませんが、Amazon LinuxのEC2インスタンス上にCode Serverを構築すれば一応Cloud9とほぼ同じことを実現できます。
Amazon FSx File Gateway
- 終了日:2024年10月28日より新規利用不可
- 代替製品:FSx for ONTAP
FSx File Gatewayは、AWSの資格試験でよくStorage Gatewayと一緒に出題されます。BlackbeltセミナーでもStorage Gatewayと合わせて解説されています。
しかし、他のStorage Gatewayサービスと異なり、FSx File Gatewayの主な用途はローカルキャッシュです。Active Directory経験者だとすぐわかると思いますが、Active Directoryのローミングプロファイルやユーザーデータのキャッシュに活躍します。
昨今のネットワーク帯域幅のコスト削減や可用性の向上により、オンプレミスから直接Amazon FSx for Windows File Serverへのアクセスが容易になったため、このサービスを終了したのではないかと推測しています。それでもローカルキャッシュが必要な場合、FSx for ONTAPを使用することが推奨されています(NetApp ONTAPストレージをオンプレに設置しなければなりません)。
Amazon Lookoutシリーズ
- 終了日:2025年10月(2024年10月より新規利用不可)
- 代替製品:SageMaker、Bedrockなど
Amazon Lookoutシリーズには、3つの製品が含まれています。これらのサービスは、データサイエンスや機械学習の専門知識がなくても利用できるよう設計されており、AWS上で簡単に導入・運用できます。
製品名 | 製品機能 | ユースケース |
---|---|---|
Amazon Lookout for Metrics | 企業のビジネスデータの異常検知 | 企業のビジネスデータの異常検知 |
Amazon Lookout for Equipment | 産業機器や工場設備の異常検知 | 発電所の設備監視 |
Amazon Lookout for Vision | 画像データを使った製品品質検査 | 食品・飲料業界での異物混入チェック |
ここ数年間、ML/AIのアプローチが大きく変わったため、これらのサービスが終了するのも予想外ではないでしょう。
同様にサービス終了となったのは、同じくML/AIサービスの「Amazon Forecast」があります。Forecastは、時系列データの未来予測を目的とするサービスです。
ほかには、同じくML/AIをテーマとしているAWS Deepシリーズにも2製品がサービスになっています。Deepシリーズは、どちらかというと教育や開発を支援するためのサービス・デバイス群です。
- AWS DeepLens:ディープラーニング対応AIカメラ。2024年1月31日サービス終了
- AWS DeepComposer:AI作曲サービス・デバイス
一方、AWS DeepRacerは健在です。公式大会があるほど人気なので、当面は継続するでしょう。
Amazon CloudSearch
- 終了日:2024年7月25日より新規利用不可
- 代替製品:Amazon OpenSearch
CloudSearchは、OpsWorksとほぼ同時期に登場したサービスです(CloudSearchは2014年にローンチ)。どちらも、その時代特有の設計思想が反映されています。CloudSearchは検索エンジンを構築するためのサービスですが、よりモダンで高機能なオープンソースの「OpenSearch」を利用するのがベストでしょう。
Amazon S3 Select/Glacier Select
- 終了日:2024年7月25日より新規利用不可
- 代替製品:Amazon Athena、Amazon S3のObject Lambda機能
S3 SelectやGlacier Selectは、厳密にはサービスではなく、S3の一機能ですが、広く利用されてきたのではないでしょうか。これらは、SQL文を用いてS3バケットやGlacierからオブジェクトを抽出する機能です。
しかし、S3バケット内のデータ分析を含めた抽出処理はAthenaの方が広範にカバーしているため、Selectの存在意義は次第に薄れてきています。また、Selectは構造化データのみに対応しており、利用が限定的だったのではないでしょうか。
一方で、非構造化データを扱う場合は、S3 Object Lambdaを活用し、Lambda関数を用いてオブジェクトデータを動的にフィルタリングする方が、より柔軟な処理が可能です。